なく、むしろその表面が白茶けて見えるのであった。何か灰のようなものが附着しているようにも思われる。煉瓦と煉瓦をつなぐモルタルは、ところどころすごく亀裂《きれつ》が走っているが、いかにも廃屋らしく見える。
この本館の玄関の大戸は、手のこみ入った模様の浮彫のある真鍮扉であったが、これはぴったりと閉っているばかりか、壁との隙間には夥しく緑青《ろくしょう》がふいていた。そして浮彫の上には、白く砂だか灰だかが積《つ》もっていて、ここ何年もこの扉が開かれた様子はない。
帆村は、手袋をはめた手でもって、表扉の把手――それは黄金色の紅葉が散らしてあったが、それを握って廻してみたり、引いたり押したりしてみたが、扉は微動だにせず、ここから入ることの困難なることを示した。帆村は把手から手を放してからカズ子の方を振向いて、軽く肩をすぼめて見せた。カズ子は、よく分りましたという風に二三度肯いた。
どこか他に入れる戸口があるのだろうと思った帆村は、カズ子を促《うなが》して建物について、ぐるぐる廻ってみた。裏手には確かに三つの出入口があったが、いずれも重い小鉄扉が下りていて、侵入を阻《はば》んでいた。しかも錆
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