強い決意の色が閃いていた。
散歩者のような調子で、二人は塀の前を静かに通って行った。だが二人は、その英国の古城風の煉瓦の塀が三ヶ所において崩れているのを、素知らぬ顔で見て過ぎた。それに反して、正面の厳《いか》めしい鉄門も、裏口にある二つの潜り門も共に損傷がなく、ぴったりと閉ざされていて、一部には錆《さび》が出ているのを発見した。本館は塀と門内の木立とに遮られて、窺うことが出来なかったが、中はひっそり閑としていた。
そのまま千早館の前を通り過ぎた二人は、やがて同じ道を引返して来た。そしてこんどは崩《くず》れた塀の前に足を停《と》め足場を調べた上で、二人は一向に悪《わる》びれた様子もなく、煉瓦の山を踏みわけて、塀の内に入った。
と、千早館の本屋は、今やあからさまなる姿を見せて二人の前に立った。
緊張に、二人とも声が出ない体であった。遠くから見たとは又別の感じがする本館であった。遠くから見たときは異臭|紛々《ふんぷん》たる感じがする臓腑館のように見えたものが、こうやって間近に寄って眺めると、どういうわけか非常に落着いた優雅な調子のものに見えるのだった。煉瓦の色もそれほど赤過ぎることは
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