すの」
「さあ、全部はどうですかね。しかし古神君は非常な天才であり、そして実に多方面に亙《わた》る知識を持っており、時間さえ構わなければ、彼ひとりの力でもって設計をやり遂げることも出来たと思います」
「じゃあ超人ね」
「超人――超人という程でもないが……」
「ねえ先生」
 春部が改まった口調で呼びかけた。
「はい」
「わたくし、何だか前から気になっていたんですが、古神子爵というのは本当の御苗字ですの」
「フルカミが本当の苗字かとお訊きになるんですね。いやあれは本当ですよ。高等学校でも……その前の中学校でも彼は古神行基でしたからね。なぜです、そんなことを気にするのは」
「だって、あまり沢山ない御苗字ですもの」
「殿様の末裔ですからね、殿様にはめずらしい苗字の人が多い」
「じゃあ、あの田鶴子さんの苗字の四方木《よもぎ》というのはどうでしょうか。あれこそ変った苗字ですわね」
「そうでしょうか。……尤も昔あの女は、自分の苗字を四方木とは書かず、蓬《よもぎ》と書いていました、つまり草のヨモギですね。しかし私が知って間もなく四方木と書くようになりました。……そうそう思い出したぞ」と帆村はそこで急に
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