好奇心を起して見物に来たんだが、そんなにあそこは危いところかね」
 帆村は馴々しく老婆に話しかけた。
「行かないがいい、行くんじゃないよ。悪い怨霊《おんりょう》が棲んでいるところだよ、村の者はそれを知っているから容易に近寄らねえが、都の衆はずかずか入り込んで皆怨霊の餌食になっちまうだよ」
 老婆は恐ろしそうに肩をすくめた。
「怨霊の餌食になったところを、誰か見た者があるのかね」
「見た者はねえけれど、餌食になり果てたことは誰にも知れているよ。その証拠には、駅を下りて千早館へ向った若い者の数と、それが引返して来て汽車に乗って行った者の数とが、うんと喰い違っているって、駅員さんは言っとるがのう。帰って行った衆は、ほんの僅かの人数だとさ」
「中に泊り込んでいるんじゃないかね」
「ばかいわねえこった。あんな八幡《やわた》の藪《やぶ》しらずのような冥途屋敷の中に、どうして半年も一年も暮せるかよう。第一その間、ちょっくら姿も見せねえでおいてよう」
「なるほど。で、その八幡の藪しらずというのは何だね」
「わたしも話に聞いただけだが、なんでも千早館の中に入ると、廊下ばかりぐるぐる続いていて、気味がわる
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