ないかと噂をしている者があった。
兼吉とは何者ぞ。親の代からの料理人で、この粋月に流れこんで来たのは七八年前で、今年四十二になる男だという。その他のことは分らない。
こんなわけで、結局帆村は、田鶴子の跡を追うことにしたのである。それで春部カズ子を連れて那谷駅で下車したんだが、この那谷駅で下車するということは、もう一つ別の方向よりする示唆[#「する示唆」はママ]があった。それは例の千早館に赴くのはこの駅で下車するのが順路であり、そして千早館は駅前から出る黒岳行のバスに乗り、灰沼村で降りるのがよいと分っていたのである。
(田鶴子は千早館へ行ったのに違いない)
帆村は確信をもって、そう解釈していた。
3
灰沼村の停留場で下車したのは、帆村と春部の二人の外に、土地の人らしい一人の老婆があった。この三人が、バスが行ってしまった後に残された。
「お前さんがたは、又千早館へ行く衆かね。やめたがいいね。悪いことはいわないよ」
婆さんは、胡散くさそうに帆村とカズ子を見くらべていった。
「あ、お婆さん。親切にいってくれて、ありがとうよ。千早館の評判が高いもんだから、私たちもちょっと
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