雪山で古神子爵を雪崩の中に突き落としたのではないか”を明らかにするためだったのです」
「まあ、なんという恐ろしいお話でしょう」
 春部は自分の両肩をしっかり抱きしめて、身ぶるいした。
「だが、その結果は、そういう嫌疑は無用だということになったんです。婦人探偵たちの一致した答申《とうしん》でした。そこで私はこの旨を池上侯爵家へ報告しました。それでそのことは片附いたんです。しかしその四方木田鶴子さんの姿を今年になってから突然見掛けたのでびっくりしていました。キャバレのビッグ・フォアでしたよ、実はそのときは田川君が連れていってくれたんですがね」
「わたくしもそうなんです」
「え。何がそうなんです」
「田鶴子さんに初めて紹介されたのが、ビッグ・フォアだったんです。やっぱり田川が連れていってくれたんです」
「ああ、そうですか。するとこれはなかなか因縁が搦《から》み合っていますね」
 帆村はポケットからパイプをとりだした。
「で、田川君の田鶴子に対する態度はどうだったんですか。あなたの目にはどううつりましたか、正直なところ……」
 相手に辛いかと思う質問を、帆村は放ったのであるが、春部は無造作にそれを引取って、
「田川は田鶴子さんを大使令嬢のように尊敬していました。また田鶴子さんもたいへん上品に見えました。わたくしはその間に忌まわしい関係などがあるようにはすこしも思えなかったのでございます」と、しとやかに感想を述べた。
 帆村は感動の色を見せて肯いた。
「先生は、田鶴子さんが古神子爵殺しの容疑者であると考えていらっしゃらないんですか」
 この突然の質問は、帆村を愕かした。しかし彼は静かに応《こた》えた。
「あの事件のときの婦人探偵の一致した『否』という答申を侯爵家に報告したのは責任者の私だったんです。それでお分りでしょう。しかしあのときの田鶴子さんに対する見解が、今日も尚続いているとはいえません。私達は、ここで改めて田鶴子さんを観察する必要があります」
「田川は、田鶴子さんを信ずるな、近よるなと、わたくしへ警告しています。それから考えると、田鶴子さんはわたくしたちへの悪意を持っているものとしか考えられないんですけれど……。いかがでしょうか」
「あの言葉はおよそ四つの場合に分析出来ると思いますよ。よくお考えになってごらんなさい」
「四つの場合でございますか。……さあ、どうして四つ
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