わっても、外へは出られないんです。そうでしょう、島ですからね。当人にそれが島だと気がつけば、そこで道が開けるんです。向いの壁へ渡っていけば、島を離れて本道へ出られるチャンスが開けるからです。しかしそれに気がつかないと、いつまでも島めぐりを続けて、遂には発狂したり斃《たお》れたりします」
「先生は、千早館にそのような島のあることを予期していらっしゃるんですか」
「有ると思いますよ。古神君は、迷路の島には異常な興味を沸《わ》かしていましたからねえ」
「島がみつかれば、どうなるんでしょう。そういえば私たちは、田鶴子さんの姿を見つけなかったし、田鶴子さんの憩《いこ》っている部屋も見かけなかったですわねえ」
「そのことです。島を探しあてることが出来たら、そこに何かあなたの疑問を解く手懸りがあるだろうと思っています」
「田川の居る場所は? いや、田川の死骸のある場所といった方がいいかも知れませんが……」
「まず迷路の島を。島が分れば田鶴子の居所が分る。田鶴子に会えば、田川君の所在が分る――と、こういう工合に行くと思うんです」
「まるで歯車が一つ一つ動き出すようなことをおっしゃいますのね」
「でも、今は、そういう道しか考えられないんですよ。もしもその間の連絡が切れているとしたら、捜査にも恐るべき島が――いや、そんなことはあるまい。連絡はきっとつく」
それから間もなく二人は、同じ迷路に再び入った。こんどはチョークを使わなかった。前に通ったときに春部がつけた夜光チョークの痕が、うすく蛍光を放って続いていた。春部にはなんだかそれがたいへんいじらしく見え、はからずも勇気を奮い起こす縁《えにし》となった。
帆村の期待は外れなかった。両側とも蛍光の筋のある壁を見ながら前進して行くと、三四丁ほど歩いたと思われる頃、三つ股の辻を渡ったところで右側の壁に筋のついていないのを発見した。それこそ島に違いなかった。
帆村は春部を促して、島の側に渡って、こんどは右手に持った洋杖の先で壁を辿りながら尚も前進していった。
すると壁は、鍵の手なりに忙しくいくたびも曲った。帆村は、恐ろしい予感に身慄いした。そして春部の耳に口せ寄せて、彼女が右手でピストルを身構える必要のあるところへ近づいたことを告げた。
彼女はいわれる通りにした。
それから一つの角を曲ったとき、急に例の音楽の音が高くなった。と、その通
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