それが何のことやら分らなかった。しかし一造兄さんといえば、東京の何とか大学の大学院学生で、いつもこんな科学実験をやっている人だった。だからそういうことがかくべつ悪いことであるはずがないと安心した。
「じゃあ研究のために観測しているんだろう。それなら悪いことじゃないから、村の人たちにかくさなくてもいいじゃないか」
「しかしね、一造兄さんはこのことは黙って居れときびしく命令を出しているんだよ。で、僕達が三日毎に山登りをして、兄さんの食物なんかはこぶことさえ誰にも知られないようにしろというんだよ」
「ああ、それで五助ちゃんは三日にあげず山登りをするんだね。なんだそんなことか。はははは」と彦太少年は安心して笑った。「でも、そんなことを秘密にするということは、ちょっとへんだね」
 彦太がそういうと、五助は無口でいろりにそだをさかんにさし入れるのだった。五助の顔には、まだ何か語りつくさないものがあると書いてあるようであった。
(何だろう?)
 と彦太は、ふしんに思った。いつもの五助なら、立板《たていた》に水を流すようにどんどんおしゃべりをするのに、それをしないで、何かを小さい胸に包んでいるようなの
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