じゃなかったとでもいうのかい」
「そうなんだ。A型ではない。だからあの血は一造さんから出た血ではない」
「ああ、うれしい。兄さんの血ではなかったのか」と五助はとびあがって喜んだが、やがてふと顔をくもらせ
「じゃあ、あの血は誰の血だったんだろう。もしや……もしや……」
 五助はその先をいうことができなくなった。彼の身体はぶるぶるとふるえ始めた。
(ああ、するともしや……もしやあの血は、一造兄さんがピストルで誰かをうって、傷つけた血ではなかろうか。そうなると、兄さんは人をピストルでうったことになる。いや、ひょっとしたらそれよりも悪いことなのではなかろうか。兄さんが人殺しをした! ああ、そんなことではないのかしら)と、五助は思いなやんでそこに立っていられなくなり、土の上へどしんと尻餅《しりもち》をついた。
「あの血の型は、今いったとおり、A型でもなく、またO型でもなく、B型でもなく、AB型でもなかった」
「えっ、じゃあ……人間じゃなく、けだものの血かね」
 人間の血液型は、四つに限っている。それのうちに入らなければ、あとはけだものではないのかと五助は首をかしげた。
「ある博士に調べてもらった
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