。
「あれから、青髪山へ行ったかい」
と、彦太は五助にたずねた。
「いや、行かないよ。行かれないんだよ、彦ちゃん」
「なぜさ」
「だって、この村では、青髪山の魔神のたたりがおそろしいといって、もう誰も山へのぼらせないことになったんだ」
「それはおかしいね」と彦太は口をとがらせていった。「青髪山の魔神をこわがるなんて迷信だよ。そんな迷信をかついでいたのでは、いつまでたっても日本は世界のお仲間にはいれないよ」
「だって、僕だって青髪山を思出してもぞっとするからね。地蔵の森にあやしい帯みたいなものがとんでいたこと、舟のような形をしている足跡、一造兄さんが行方不明になるし、大雪崩はあるし、それから大吹雪――そうそう、それにあのとき僕の手が血だらけになっていたことを君もおぼえているだろう。こんなにあやしいことだらけだもの」
そういった五助の顔には血の気がなかった。彦太は首を左右にふって、
「だめ、だめ。そのようにおびえていては、いつまでたっても正体をつかむことはできないよ。さあ、これから僕といっしょに青髪山へ行ってみよう。もう山の雪はとけているだろうね」
と、強い声でいった。
五助ははじ
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