えていたせいか、その呪《のろ》いの被害もこれまでに見られないほど残虐を極めたものでした。いわゆる「赤耀館事件」なる有難くない醜名を世間に曝《さら》すことになったのです。そして一昨年の春、くわしく言えば六月十日に、折柄来訪して来た笛吹川画伯の頓死《とんし》事件を開幕劇として怪奇劇は今尚、この館に上演中なのです。
笛吹川画伯は、その日、午後三時をすこし廻ったと思う頃、赤耀館の玄関にひょっくりその姿を現わしました。執事《しつじ》の勝見伍策というのが出迎えましたが、直ちに私の兄で、赤耀館の当主であった丈太郎に取次ぎましたが、兄は舌打《したう》ちをして顔の色さえ変えました。勝見に会見の諾否を伝えようと思っている間に、入口の扉を乱暴に開くと、笛吹川画伯がぬからぬ顔を真正面に向けて入って来ました。
「無断で入って来ちゃ困るじゃないか」と兄は唇をワナワナふるわせて呶鳴《どな》りました。
「馬鹿を言え、貴様から礼儀だの修身だのというものを聞こうとは思わんよ」と大口を開いて高らかに笑い、無遠慮に側《かたわ》らの安楽椅子を引きよせました。勝見は顔を曇らせて此の室を去りました。
それから時々激しい声音が、
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