扉がすぐに閉じられたため、室内の気象の変化は、また前のように立ち還《かえ》ったせいでありましょう。ただ、室内温度がやや著しい上昇ぶりを示しているのは、この室に新たに人が入って来て、それも割合に温度計の近くにいたためか、それとも中の機械を運転したためにその各部から発散される熱量の影響であるかの、何《いず》れかです。私の推測では、五十八分に入って来たのは丈太郎氏であり、時報《タイム・シグナル》をうけるために室内に電灯を点じ、無線送受信機が動作を始めたせいだと思っています。
午後八時六十分――つまり午後九時になって、三曲線は再び折れたような変化を示しています。ことに面白いと思う点は、今度の変化は、先に起った五十八分における変化とは大分趣きを異にしていることです。気圧の変化は、同じ様ですが湿度の激しい増大ぶりと、室内温度が前とは反対に下り始めていることは著しい特徴だと言わなければなりません。これは一体、何を物語っているのでありましょうか。……私の考えによると、丁度九時になって一人の人間が全身ずぶ濡《ぬ》れになって此の室に飛びこんで来たのです。そのために濡れた水分が室内に蒸発をはじめて急に湿度
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