「冗談はよしてくれ、まさかそんな馬鹿なことが……」
「では兄は誰かに殺されたのでございますか?」百合子は、たまりかねて、こう質問しました。
「勿論、殺されたに違いありません」と赤星探偵は黒い眼鏡をキラリと光らせ乍ら、静かに言ったのです。「犯人を見出す見当はついたのです。そうですな、もう三十分もすれば、すっかり説明をしてあげます。尾形さん、もう十分もたてば、例の通り打合せて置いたから、この室へ電気が通ずるだろう。そうすると、あの配電盤の真白い大理石の上に、赤い電球が点くから、あなたはそれを注意していて下さい。その前に私は計算をしなければならないので、一寸失敬するよ」
 こう言って赤星探偵は懐中から広い洋紙と、細長い計算尺と、それから掌に入りそうな算盤《そろばん》とを出して卓子《テーブル》の上に並べました。それから、つと立ち上ると、兄の死んでいた場所の近くに、壁にとりつけられてあった自記式《オートグラフィック》の気温計、湿度計、気圧計の中を開いて、白い紙が部厚にまかれたものをとり出しました。その巻紙の上には、時々刻々の気温、湿度、気圧が、紫色の曲線で以て認められてあったのです。尾形警部
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