綱も切れてしまったので、警部の無念を包んだまま、兄の急死事件も抛棄せられました。独逸に居た私は、嫂からの急電により、この変事を知りましたが、即刻帰朝の決心をし、その旨を嫂に向けて返電いたしました。しかし、如何に早く帰国したいと言って、西伯利亜《シベリア》鉄道を利用することも、米国まわりにすることも、私の健康が許されそうもなかったので、矢張り四十日を費して欧州航路を逆にとることにしました。このことは電報の中に書いて置いたのです。
 一方、兄の急死によって陰鬱《いんうつ》さを増した赤耀館では、雇人が続々と暇を願い出ました。嫂も百合子も、盛んに慰留しましたが、彼等はどうしても止《とど》まろうとは申しません。勝見は嫂や百合子と雇人たちの間に立って苦しんでいましたが、遂に彼自身すら、暇を願い出るようなことになりました。
「勝見さんも止したいというの。皆の真似《まね》をしなくてもいいでしょう」と百合子が皮肉めいた口を利きました。
「決してそう言うわけではありません。唯私の健康状態が許しませんので……」
「あんたが居なくなっちゃうと、今度は、姉さんの健康状態がわるくなってよ」
「どういたしまして。お
前へ 次へ
全65ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング