、なんとなく弱々しい暗さを持った大広間だった。段々と気持も落付き、この上強いて気になることを神経質に数えあげるならば、主人公の顔貌《かおだち》が能面でもあるかのように上品すぎることと、その胆汁《たんじゅう》が滲《し》みだしたような黄色い皮膚と、そして三十女の婦人病を思わせるような眼隈《めのくま》の黝《くろ》ずみぐらいなものであった。しかし軈《やが》てそれさえすこしも気にならなくなった。というのは、主人公の語り出した所謂《いわゆる》「赤耀館事件の真相」なるものが私の想像以上に複雑とも奇々怪々ともいうべきものであって、飢え渇いていた私の猟奇《りょうき》趣味は、時の経つのも忘れてその物語を聞き貪《むさぼ》ったことである。
さて、赤耀館主人は語る――。
赤耀館の顛末《てんまつ》は、新聞記事で、既によくご存知のことと思います。いや、貴方はあの事件について、最も興味と疑惑とを持っていらっしゃることも、実はちゃんと前から知っていたのです。貴方は警視庁の調書まで読まれたそうですが、薩張《さっぱ》り満足せられていないように見受けたと、尾形警部が言っていましたよ。尾形警部と言えば、赤耀館事件の取調主
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