ゅうりん》せられてしまいました。兄は、自記式《オートグラフィック》の気温計や、気圧計や、湿度計がかけてある壁の際に、うつぶせになって仆れていました。勝見と賀茂子爵とが兄の身体を卓子《テーブル》の上に移しました。そのとき卓子の上に、コップが一つ置かれていましたが、その底には僅かにレモナーデの液体が残っていたそうです。嫂は物も得言《えい》わず、ただうちふるえて兄の身体をゆすぶっていましたが、百合子が「姉さん、しっかりして頂戴」と後から囁《ささや》きますと、そのままとうとう百合子の腕の中に気を失ってしまいました。それで騒ぎは益々大きくなって行ったのです。一座の中には、医学博士やドクトルも居たので、両人には割合に手早く手当が加えられました。嫂は、まもなく蘇生《そせい》して、元の身体に回復しましたが、兄の方は遂に息を吹きかえしませんでした。その死因は、たしかなこととて判らないのですが、心臓麻痺らしいという見立てでありました。死因に疑いを挟んだ医学者も居たのでしょうが、その場のことですから口を緘《かん》して語らなかったのでしょう。こんな風にして、兄はとうとう赤耀館の悪魔の手に懸ってしまったのです。
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