よ。養生しなくちゃ……」
「神経衰弱なんでしょうか?……でも気味が悪いんですもの。わたしもあの男に喰べられてしまうかも知れないわ」
「馬鹿なことを言っちゃいけない。だからこれからは、麻雀競技会を時々開いて大勢の人に来て貰うのさ。今に、親類のように親しくなる人が三人や四人は出来るよ」
「勝見に暇をやることはいけなくって?」
「ウム。いけないこともないが、時期がある。つまらないことを喋られてもいやだからな」
「私はもうこの館《うち》が、いやになったわ」
兄は毎日を家の中に居て、別にすることなく暮していました。言わば、典型的な有閑階級に属する人間でした。そういう種類の人間は必ず何か趣味を持っているものなのですが、兄の場合には強いて挙げるならば三つの趣味とも娯楽ともつかないものを持っていました。
その一つは、麻雀でした。彼はこの勝負事に一時かなり熱中したことがありました。多分最初は、麻雀という時間のかかる競技が、彼のように多くの閑を持つ人間を、無聊《ぶりょう》から救ってくれたからでありましょう。しかし段々と競技をすすめて見ると、一か八かの勝敗から、その日、その月の彼の運命が勝負の中に織りこ
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