しかし探偵小説に趣味を持っている私としては、諸新聞の記事を聚《あつ》め、又警視庁の調書も読ませて貰い、なるほど証拠不充分、乃至《ないし》は証拠絶無の事実を合点することが出来たのであったが、どうしたものか、事件の底に猶《なお》消化しきれない或るものが沈澱《ちんでん》しているような気がしてならなかった。このことは、その後、機会があるごとに、自分の左右に席を占める人達に話をしてみたが、誰も私ほどの興味を覚えている人はなかったようである。
ところが昨日になって、私は突然、赤耀館主人と名乗る人からの招待状を受取った。その文面はすこぶる鄭重《ていちょう》を極めたもので、「遠路《えんろ》乍《なが》ら御足労を願い、赤耀館事件の真相[#「赤耀館事件の真相」に丸傍点]につき御聴取を煩《わずら》わしたく云々」とあった。赤耀館事件の真相と呼び、圏点《けんてん》まで打ってあるところを見ると、矢張り私の想像したとおりに、今日まで発表された事件の内容以外に、隠されている奇怪な事実があるのに違いない。私は勿論、喜んで拝聴に出かける旨《むね》を返事した。
赤耀館は東京の近郊N村の、鯨ヶ丘と呼ばれる丘の上に立って
前へ
次へ
全65ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング