の胃の腑に運ばれてしまったのです。世の中にこれほど惨酷《ざんこく》な他殺方法を考え出した男が他にありましょうか。――残念なことに、今以て彼の行方が知れないのです。しかし私は草を起し、土をわけてもあの殺人鬼を探し出して見せますよ」こういって赤星探偵は口をむすびました。
「すると笛吹川は、まだ此の赤耀館の者に呪いの手をのばすかも知れませんわね。まああたくし、どうしたらいいのでございましょう」百合子は、次の犠牲者となることを考えてみて早や眼の前が暗くなったようです。
「御心配は無用です」と赤星探偵はやさしく言いましたが、何を考えたものか、彼は黒い眼鏡を外《はず》し、長髪に手をかけて引張ると、それはするりと彼の手の中に丸めこまれました。そこには晴々しい笑顔をうかべた二十七八歳と思われる青年の顔がありました。それはどこやら覚えのある顔でした。ああ、丈太郎の弟である亮二郎さんに違いはなかったのでした。
「まあ、貴方は……」百合子はさっと顔をあからめました。「赤星探偵、実は松木亮二郎です。よく私を覚えていてくれましたね。貴女にも色々御心配をかけましたが、今日からは私が貴女の保護者になりましょう。やさしい貴女が私の側についていて下さる間は、赤耀館にはなんの惨劇も起り得ないのです」
 尾形警部はそのとき、気をきかせて、室をしずかに出て行きました。それからのちのことは説明するまでもないことです。
 これで赤耀館事件の真相をすっかり話してしまったことになりました。この話の結びとして、最後に言いのこしたことをよく味《あじわ》っていただきたいと思います。この事件の結末は、まだ本当についていないのです。それは笛吹川画伯の行方が、一年この方、いまだに知れないことに在るのです。彼は一体、どこに居て、何をしているのでしょう。
 これがもし貴方のおすきな探偵小説であったとしたならば、これだけの物語を以て、なんと結末をおつけになりますか。若し私が貴方の立場に居たとして、自然な結末をつけるものとすれば、先ずこんな風に考えてみてはどうでしょう。ここは門司の埠頭《ふとう》です。一人の青年が東京へ急ぐこころを押《おさ》えて、大きな汽船から降り、倉庫のあたりを一人で静かに散歩していたとしましょう。そのとき背後から二人の怪漢が忍び寄り、呀っという間に青年の頭から、南京米の袋をかぶせてしまった。怪漢はこの袋を楽々とか
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