ったのです。私はそれから日暮里の火葬場に行き、作業員の機嫌をいろいろととって見た上で、笛吹川の死体火葬当時のことを思い出して貰いました。笛吹川のことを思い出して呉れる特徴を彼等の前に提供することができたため、とうとう大変参考になる怪事実を知ることが出来たのです。作業員の話によると、骨の大きさから推して考えると笛吹川の身長は五尺以下であったそうで、その一事だけでも五尺六寸もある彼の身体が焼かれたのでないことが判ります。猶その上に、彼の骨は余りに焼けすぎてしまって、作業員が手にとると粉々に形を失ってしまうのでした。そんな実例は全く今までに見たことがなかったと、五十年もあの火葬場に居る留さんという爺さんが語りました。これから察するところ、笛吹川はどこかの医学校の標本室から、骨骼《こっかく》を盗み出して来て、彼自身の身代りとして棺中に収めたのでしょう。ここいらも、彼の周到な注意ぶりが窺われます。
それから笛吹川の驚くべき陰謀としては、例の勝見伍策が、彼に全く酷似《こくじ》した容貌や背丈をもっているのを発見して巧く手なずけたのです。勝見は既に彼自身が病気に罹《かか》っているところから、今後の彼の生活を保障して貰うのを交換条件として、笛吹川の意志に従ったのです。笛吹川は顎鬚を剃りおとし、髪かたちから風貌までを整えて笛吹川の死後、五日目に赤耀館へのりこんだのです。それからのちのすべては、いと安々と彼の希望どおりに運んで行きました。綾子夫人も彼の執念ぶかい好色から手に入れてしまうことも出来ましたし、夫人の手を経て恋敵である丈太郎氏を殺し、嫌疑が夫人にかかるように計画したこともその通りに成功しました。彼が暇をとると、勝見を某所の温泉から島の療養所に移して巧みに勝見という人間の行動を不連続にならぬようはからったのです。夫人のヒステリーの昂《こう》じたころ、築地のホテルへ誘き出し、前代未聞の恐るべき手段を用いて夫人を殺しました。詳しいことを説明するのを憚《はばか》りますが、その夜、夫人が満悦したエクスタシーののち、恐らく笛吹川に渇《かつ》を訴えたのでしょう。笛吹川はそのとき自ら口移しに夫人にレモナーデ水を与えました。何もしらぬ夫人は、灼けつくような渇《かわ》きを医《いや》すため、夢中になってその甘酸っぱい水をゴクリと咽喉《のど》にとおしたとき、青酸加里のカプセルは笛吹川の口を離れて夫人
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