とう》して来た。
「とうとう、新宿の轢死美人《れきしびじん》の身許《みもと》が判ったてじゃありませんか。誰だったんです」
「自殺の原因は何です」
「全然|素人《しろうと》じゃないという噂《うわ》さもありましたが……」
当直《とうちょく》は、記者に囲まれたなり、ふかぶかと椅子の中に背を落とした。そして帽子を脱いで机の上に置くと、ボリボリと禿《は》げ頭を掻《か》いた。
「書きたてるほどの種じゃないよ。それに轢死美人でも顔が見えなくちゃなア」
本気か冗談か判らぬようなことを云って、アーアと大欠伸《おおあくび》した。記者連《きしゃれん》もこんな真夜中に自動車を飛ばして駈けつけたことが、のっけからそもそもの誤《あやま》りだったような気がして、一緒に欠伸を催《もよお》したほどだった。
しかし、それから二十四時間後に、彼等は同じこの場所に、互《たがい》に血相《けっそう》をかえて「怪事件発生」を喚《わめ》きあわねばならないなどとは、夢にも思っていなかったのである。
2
それから二十四時間ほど経った。
同じ警察署の夜更《よふ》けである。今夜は事件もなく、署内はヒッソリ閑《かん
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