ような紙函《かみばこ》を載せて、乙吉の方にさしだした。
「これは……?」乙吉の受取ったのは、よく鉱物《こうぶつ》の標本《ひょうほん》を入れるのに使う平べったい円形《えんけい》のボール函《ばこ》で、上が硝子《ガラス》になっていた。硝子の窓から内部《なか》を覗《のぞ》いてみると、底にはふくよかな脱脂綿《だっしめん》の褥《しとね》があって、その上に茶っぽい硝子|屑《くず》のようなものが散らばっている。
「判らんかネ」と警官は再び尋《たず》ねた。「これはセルロイドの屑なんだ。そして燃え屑なんだがネ」
「どこに御座いましたのですか」
「これは、君が今引取ってゆこうという轢死婦人のハンドバッグの隅《すみ》からゴミと一緒に拾い出したのだ」
「さあ、どうも見当《けんとう》がつきませんが……」
どうやら隅田乙吉は、本当に心当りがないらしかった。で、熊岡警官はそれ以上|追究《ついきゅう》したり、また今とりつつある上官《じょうかん》の処置に異議《いぎ》を挿《はさ》もうという風でもなく、事実その問答はそこで終ったのであった。
隅田乙吉が屍体を守って中野の家へ帰ってゆくと、入れ違いに新聞社の一団が殺到《さっ
前へ
次へ
全93ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング