何でもかんでも断ることにしていたのです。轢死をする前の晩も私のところへ来ましたが、又《また》金の無心《むしん》です。これが最後だというので百円|呉《く》れてやったところ、素直に帰ってゆきました。そのときは、よもやこんな惨《むごた》らしいことになろうとは思いませんでした。……なんですって、警察へ来ようが大変遅かったって、それはこうですよ。ちょっと私は商売のことで午後から出て居りまして帰りが遅かったものですから……」
 顔面《かお》は判らぬが、髪かたちに、それから又身のまわりの品物などを一々|肯定《こうてい》したので、轢死婦人は隅田乙吉の妹うめ子であると断定された。乙吉は幾度も係官の前に迷惑をかけたことを謝《しゃ》し、屍体は持参《じさん》の棺桶《かんおけ》に収《おさ》め所持品は風呂敷《ふろしき》に包んで帰りかけた。
「オイ隅田君、ちょっと待ち給え」司法係《しほうがかり》の熊岡《くまおか》という警官が席から立ち上って来た。
「はいッ」隅田乙吉は、手にしていた風呂敷包みを又|卓子《テーブル》の上に置いて振りかえった。
「君はこんなものを知らんか」
 警官は掌《て》の上に、ヨーヨーを横に寝かした
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