りゅうひん》を一つ一つ手にとりあげながら、彼はコンパクト一つにもかなり明瞭な説明をつけ加えた。轢死人は彼の末《すえ》の妹だったのだ。
「このコンパクトですがネ、梅子《うめこ》――これは死んだ妹の名前なのです、梅子はもう五年もこのコティのものを使っていましたよ。ごらんなさい。蓋《ふた》をあけてみると、この乱暴な使い方はどうです。あいつの性格そのものですよ。妹は今年二十四になりますが、どっちかというと不良《ふりょう》の方でしてネ、それも梅子自身のせいというよりも私達|同胞《きょうだい》もいけなかったんです。何《なに》しろ兄や姉が、合わせて八人も居るのです。皆、相当楽に暮しているんです。梅子は末《すえ》ッ子でした。兄や姉のところをズーッと廻ると、あっちでもこっちでも「梅ちゃん」「梅ちゃん」とチヤホヤされ、「ほら、お小遣《こづか》いヨ」と貰う金も、十七八の少女には余りに多すぎる嵩《かさ》でした。梅子は純真な子供心の向うままに、好きなことをやっているうちに、とうとう不良になっちまったんです。このごろでは流石《さすが》の同胞たちも、梅子から持ちこまれる尻拭《しりぬぐ》いに耐《た》えきれなくなって、
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