》としていた。
そのとき署の玄関の重い扉を、外から静かに押すものがあった。
ギーッ、ギーッという音に、不図《ふと》気がついたのは例の熊岡警官だった。彼は部厚《ぶあつ》な犯罪文献《はんざいぶんけん》らしいものから、顔をあげて入口を見た。
「だッ誰かッ」
夜勤《やきん》の署員たちは、熊岡の声に、一斉《いっせい》に入口の方を見た。しかし今しがたまでギーッ、ギーッと動いていた重い扉はピタリと停って巌《いわ》のように動かない。
「うぬッ」
熊岡警官は席を離れると、ズカズカと入口の方へ飛んでいった。そして扉《ドア》に手をかけると、グッと手前へ開いた。そこには外面《とのも》の黒手《くろて》のような暗闇《やみ》ばかりが眼に映《うつ》った。
「オヤー」
熊岡警官は、何を見たのか扉の間からヒラリと戸外に躍《おど》り出た。バタンと扉はひとり手に閉まる。一秒、二秒、三秒……。空間も時間も化石《かせき》した。
風船がパンクするように戸口がサッと開いた。
「さア、こっちへ這入《はい》れ!」
熊岡警官の怒号《どごう》と諸共《もろとも》、黒インバネスを着た一人の男が転げこんできた。署員は総立ちになった。
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