くれているな。吾々の眼はもう胡魔化《ごまか》されんぞ。白丘ダリアが嫌いだったら、『赤外線男』として汝を捕縛《ほばく》する。それッ」
 ワッと喚《わめ》いて、選《え》りぬきの腕に覚えのある刑事が、ダリアの上に折り重なった。もう遁《に》げる道もなければ、方法もなかった。
「赤外線男」は、それっきり自由を奪われてしまった。
     *   *   *
 事件が一|段落《だんらく》ついた後の或る日、筆者《わたくし》は南伊豆《みなみいず》の温泉場で、はからずも帆村探偵に巡《めぐ》りあった。彼は丁度《ちょうど》事件で疲れた頭脳を鳥渡《ちょっと》やすめに来ていたところだった。仄《ほの》かに硫黄《いおう》の香《かおり》の残っている浴後《よくご》の膚《はだ》を懐《なつか》しみながら、二人きりで冷いビールを酌《く》み交《か》わした。そのとき彼の口から、この事件の一切の顛末《てんまつ》を聞くことが出来たのだった。彼は中学校で同級だったときのあの飾り気のない口調《くちょう》で、こんな風に最後の解決を語った。

「『赤外線男』が白丘ダリアといったんでは、警官の中にも本気にしない人があった位だよ。しかし要点を云
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