それに「便所」という文字が読めた。
彼女は、飛び立つ想いで、そこの扉《ドア》を押した。扉があくと、そこには清潔な便器が並んでいる洋風厠《ようふうかわや》だった。ダリアはその一つに飛びこんで、パタリと戸を寄せると、気持のよい程、充分に用を足した。
大きい鏡があったので、ダリアはそこで繃帯《ほうたい》を気にしながら、硫酸《りゅうさん》の焼け跡のある顔へ粉白粉《こなおしろい》を叩いた。そして入口の扉を押して、廊下に出た。その途端《とたん》にダリアはハッと駭《おどろ》いて、
「呀《あ》ッ」
と声をあげた。
そこには思いがけなくも、帆村を始め、捜査課長、検事、判事など十四五人が、ダリアの方に身構《みがま》えをしていた。
「まア、どうしたんです。帆村さん」
ダリアの救いを求めた帆村は、最早《もはや》、先刻、射的《しゃてき》で遊んだ帆村とは別人《べつじん》のようであった。
「白丘ダリアさん。それは今大江山捜査課長から説明して下さるでしょう」
言下《げんか》に大江山課長はヌッと前へ出た。
「白丘ダリア。いま汝《なんじ》を逮捕する」
「あたしを逮捕するって、冗談はよして下さい」
「まだ白っぱ
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