うとネ、元々『赤外線男』という名称は、殺された深山理学士がつけたものなのだ。彼は『赤外線男』を見たといって、いろいろな話をしたが、本当は一度も見たわけじゃなかったのだ。それは彼が便宜上《べんぎじょう》拵《こしら》えた創作的観念であって、実在ではなかった。
何故そんなことをやったかというと、始めはあの新説で世間を呀《あ》ッと云わせて虚名《きょめい》を博しよう位のところだったらしいが、いよいよというときには事務室の金庫から彼が消費《つかい》こんだ大金《おおがね》の穴埋《あなう》めに、『赤外線男』を利用したわけだった。研究室が潮に襲われると、逸早《いちはや》く彼は避難したのだったが、そのチャンスを巧くとらえて、潮のかえった後の自室や事務室を散々自分で破壊してあるき、自ら変圧器の上にあがると、自分の身体を縛ったのだ。智恵のある人間には訳のないことだ。
しかしこの犯行の裏には三人の女が隠れているんだ。そういうと不思議に思うだろうが、一人は情婦《じょうふ》という評判の女・桃枝だ。この女には秘密に大分|貢《みつ》いだものらしい。金庫の金に手をかけたのも、この女のためだ。
もう一人の女は子爵夫人
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