んですネ」
「そうなんだそうですよ。開けてみると、押入れの中にそれがありましてネ、もう肉も皮も崩れちゃって、まッ大変なんですって。着物を一枚着ているところから、女の、それも若いひとだってぇことが判ったって云いますよ」
「ナニ、若い女の屍体?」帆村はドキンと胸を打たれた。そうだ、今日は探しに歩こうと思っていたあの女の屍体かも知れない。日数が経っているところから云っても、これは見遁《みのが》せないぞと、心の中で叫んだ。
「そこは、その女の人の借りている室なんですか」
「いいえ、そうじゃないですよ。あすこは潮《うしお》さんという若い学生さんが一人で借りているんです。ところが潮さん、この頃ずっと見えないそうで……」
「その潮さんというのは、若《も》しや背丈の大きい、そうだ、五尺七寸位もある人でしょう」
「よく知ってますね」と内儀さんは、はだけた胸を掻《か》き合《あ》わせながら云った。「ちょいといい男ですわヨ、ホッホッホ」
 帆村は苦笑した。
「あらッ、向うから潮さんが帰ってきちゃったわ」
「えッ」と帆村は駭《おどろ》いて、内儀さんの視線の彼方を見た。
「まア大変顔色がわるいけれど、あの人に違い
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