いるものやら見当がつかなかった。どこから金を見つけて来たかと思うような堂々たる五階建のアパートなどが目の前にスックと立って、行《ゆ》く手《て》を見えなくした。彼は忌々《いまいま》しそうに舌打ちをして、大田中《おおたなか》アパートにぶつかると、その横をすりぬけようとした。そしてハッと気がついた。
見ると、アパートの高い非常梯子《ひじょうばしご》に、近所の人らしいのが十四五人も載《の》って、何ごとか上と下とで喚《わめ》きあっているのだ。
「どうしたんです」
帆村は道傍《みちばた》に立っている人のよさそうな内儀《おかみ》さんに訊《たず》ねた。
「なんですか、どうも気味の悪い話なんでござんすよ」と内儀さんは細い眉《まゆ》を顰《しか》めると、赤い裏のついた前垂《まえだれ》を両手で顔の上へ持っていった。「あのアパートの五階に人が死んでいるんだって云いますよ。そういえば、このごろ、近所の方が、何だか莫迦《ばか》に臭《くさ》い臭《くさ》いと云ってましたが、その死骸《しがい》のせいなんですよ。まあ、いやだ」
内儀さんは、ゲッゲーッと地面へ唾《つば》をはいた。
「じゃ、よっぽど永く経《た》った死骸な
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