った。「じゃ貴方も深山理学士は大丈夫といいながら、一面では大いに疑っていたんですネ」
「そりゃそうだ。今となって云っても仕方が無いが、ひょっとすると、赤外線男というものは、深山理学士の創作じゃないかと思っていた」
「大いに同感ですな」
「視《み》えもせぬものを視えたといって彼が騒いだと考えても筋道が立つ。――ところが其《そ》の本人が殺されてしまったんだから、これはいよいよ大変なことになった」
「僕は兎《と》に角《かく》、見に行って来ます。あれは日本堤署《にほんつつみしょ》の管内《かんない》ですね」
課長は黙って肯《うなず》いた。
警察へ行ってみると、現場《げんじょう》はまだそのままにしてあるということだった。場所を教えて貰《もら》うと、彼は直ぐ警察の門を飛び出した。
そこから、桃枝の家までは五丁ほどで、大した道程《みちのり》ではなかった。彼は捷径《ちかみち》をして歩いてゆくつもりで、通りに出ると、直ぐ左に折れて、田中町《たなかまち》の方へ足を向けた。震災前《しんさいぜん》には、この辺は帆村の縄張《なわば》りだったが、今ではすっかり町並《まちなみ》が一新《いっしん》してどこを歩いて
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