者を、昨日一昨日に送ったとは思えないほど、麗《うらら》かな陽春の空だった。
彼は先ず、警視庁の大きな石段をテクテク登っていった。
「どうです。何か見付かりましたか」彼は捜査課長の不眠に脹《は》れぼったくなった顔を見ると、斯《こ》う声をかけた。
「駄目です」と課長は不機嫌に喚《わめ》いてから、「だが、昨夜また犠牲が出たんです。今朝がた報《しら》せて来ました」
「なに、又誰かやられたんですか」
「こうなると、私は君まで軽蔑《けいべつ》したくなるよ」
「そりゃ、一体どうしたというのです」帆村は自分でもなにかハッと思いあたることがあるらしく、激しく息を弾《はず》ませながら問いかえした。
「浅草の石浜《いしはま》というところで、昨夜の一時ごろ、男と女とが刺し殺された。方法は同じことです。女は岡見桃枝《おかみももえ》という女で、男というのが……」
「男というのが?」
「深山《みやま》理学士なんだッ。これで何もかも判らなくなってしまった」
課長は余程《よほど》口惜しいものと見えて、帆村の前も構わず、子供のような泪《なみだ》をポロポロ滾《こぼ》した。
「そうですか」帆村も泪を誘《さそ》われそうにな
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