こんな仕掛けを予《あらかじ》め作って置いたのである。しかし総監閣下が犠牲《ぎせい》になられたのでは、何にもならない。本庁の連中の愚鈍《ぐどん》さに、帆村は呆《あき》れる外《ほか》なかった。
「で、閣下がお入りになってから、フィルムを廻したのですネ」
「そうです。うまく撮ったつもりです。――だが閣下は殺害されました。兇器《きょうき》は鍼で、同じように延髄を刺しつらぬいています」
「現像は……」
「今やっています。直《す》ぐこれからおいで願いたいのです」
「ええ、参ります」
 帆村は憂鬱《ゆううつ》な返辞《へんじ》をした。
 駆《か》けつけてみると、本庁は上を下への大騒ぎだった。殺《や》られる人に事欠《ことか》いて、総監閣下が苟《かりそ》めの機会から非業《ひごう》の死を遂《と》げたというのだから、これは大変なことである。
「どうです。フィルムの現像は出来ましたか」帆村は課長に会うと、真先《まっさき》に訊《き》いた。
「出来たのですが……」
「どうしたんです?」
「駄目でした。赤外線灯の前に、どういうものかドヤドヤと人が立って、肝心《かんじん》のところは真暗で、何にも写ってやしません」
 課
前へ 次へ
全93ページ中66ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング