っていたという暗合、それから黒河内子爵《くろこうちししゃく》夫人が、行方不明で、今も尚《なお》生死が知れぬが、あの少し前に、乱歩《らんぽ》氏の「陰獣《いんじゅう》」のことを言い出したという事――よし、明日から、この方面を徹底的に調べてみよう。
 帆村は、こう考えると、静かに椅子から立ち上って卓子《テーブル》の灰皿へ長くなった白い葉巻の灰をポトンと落した。
 そのとき卓上電話がジリジリと鳴った。帆村はキラリと眼を輝かすと、電話機を取上げた。
「帆村君を願います」性急《せいきゅう》な声が聞えた。
「帆村は私ですが、貴方は?」
「ああ、帆村君。私です。捜査課長の大江山警部ですよ」それは故幾野課長の後を襲った新進《しんしん》の警部だった。
「大江山さんですか。また何かありましたか」
「ええ、あったどころじゃないです。唯今《ただいま》総監閣下が殺害《さつがい》されました」
「ナニ総監閣下が……? 本当ですか」
「困ったことですが、本当です」
「一体どうしたのです。どこでやられたのです」
「今日は御案内したとおり、深山理学士の赤外線テレヴィジョン装置を、本庁の一室にとりつけたのです。それは警戒を充
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