《みもと》もわからないし、地下に葬《ほうむ》った筈《はず》の死骸が紛失《ふんしつ》した不思議さを、今も尚《なお》覚《おぼ》えていて、あれも赤外線男の仕業だろうと云っているようだ。死骸を奪ったのが赤外線男だとすると、それは何のためだ。外国の小説には、火星人が地球の人間を捕虜《ほりょ》にし、その皮を剥《は》いで自分がスッポリ被り、人間らしく仮装して吾れ等の社会に紛《まぎ》れこんでくるのがある。しかしあの婦人の顔面《かお》は滅茶滅茶《めちゃめちゃ》だった筈だ。婦人に化けたとしても、あの顔をどうするのだ。顔をかくしている婦人なんて印度《インド》や土耳古《トルコ》なら知らぬこと、この日の本にありはしない。婦人の死骸の行方が判らない限りこの問題は解決がつかない。
 それから熊岡警官が轢死婦人のハンドバッグから探し出したフィルムの焼《や》け屑《くず》だ。あれは一体何だ。あれが判明すると、婦人の死因は勿論、身許まで解ることだろう。
 赤外線男に関係あるかどうかは二段として、この婦人の問題を解いて置くことは、あまり困難でもない。その上に、隅田梅子《すみだうめこ》という婦人と轢死婦人とが同じ衣類所持品をも
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