残るは深山《みやま》理学士だ。これは確かに怪《あや》しくてもいい人物だ。しかし彼は赤外線男を見たという。赤外線男が二人もあるなら格別、一人なら彼の嫌疑《けんぎ》は薄い。ことに彼は赤外線男に襲撃され、変圧器の上へ抛《ほう》り上げられていた被害者ででもある。感心しない。
然《しか》らば白丘ダリア嬢はどうだ。「赤外線男」というからには、ダリア嬢では性別が違っている。男が女装しているものとはあの溌溂《はつらつ》たる肉体美から云って信じられない。殊《こと》に課長がやられた日には、眼を悪くしていた。あのように視力の弱っているのに、延髄を刺すというような精密正確を要することが出来るであろうか。
いや凡《およ》そ、あの部屋にいた連中は皆、闇黒《あんこく》の中に沈澱《ちんでん》していたのだ。誰も視力を奪われていた。暗闇で延髄《えんずい》を刺すということは、誰にも出来ない筈だ。
残る嫌疑者《けんぎしゃ》は自分であるが、これとても同じことが云える。
然らば、誰が課長を殺したか?
ああ、赤外線男! 貴様はやっぱり存在するのか。貴様でなければ、あの殺人は出来ないことにはなるが、貴様は一体何者だッ。
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