線男とは思えず、一寸《ちょっと》話を聞いただけで偽《にせ》赤外線男だと看破《かんぱ》出来るようなものもあった。
 帆村探偵は、直接に攻撃されはしなかったけれど、内心大いに安からぬものがあった。彼は書斎のソファに身を埋《うず》めると細巻のハバナに火を点けて、ウットリと紫の煙をはいた。彼は元々赤外線男などという不思議な生物があるとは信じていなかった。しかしそれには別に根拠があるわけではなかったのだ。捜査課長の故《こ》幾野氏の惨死《ざんし》事件を考えてみるのに、あれは赤外線男なら勿論《もちろん》出来ることであるが、それと同時にあの部屋にいた人間にも出来ることではないかと思いかえしてみた。
 雁金検事、中河判事――この二人は、まず犯人ではないであろう。彼等の本庁に於ける歴史も功績も古く大きいものだ。
 警部、刑事も疑えば疑えないこともないが、日頃知っている仲だから先ず大丈夫。
 熊岡警官はどうだ。これは始めて会った人ではあるが、Y署では模範警官といわれているから大丈夫だろう。但《ただ》しいろいろと探偵眼のあるところが、平《ひら》警官として多少気に入らないこともないが、一々疑ってはきりがない。

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