かった。鍼に筋肉が搦《から》みついてしまったものらしい。
「一体これは、どうして検《しら》べようか」判事が当惑《とうわく》の色をアリアリと現わして云った。
「どうも、相手が悪い」と検事が呟いた。
「赤外線男はそれとして置いて、普通の事件どおり、この部屋の中にいる者は、すっかり取調べることにして下さい」と帆村が云った。
 そこで係官が代りあって係官自身と、帆村、深山理学士、白丘ダリアとを調べてみたが、別に怪《あや》しい点は何一つ発見されなかった。
 結局、赤外線男の仕業ということが裏書《うらが》きされたようなものだった。流石《さすが》の帆村探偵も手も足も出せなかった。


     6


 捜査課長の殺害《さつがい》事件は、俄然《がぜん》日本全国の新聞紙を賑《にぎ》わした。それと共に、赤外線男の噂が一段と高まった。警視庁の無能が、新聞の論説となり、投書の機関銃となり、総監をはじめ各部長の面目《めんもく》はまるつぶれだった。
 四谷《よつや》に赤外線男が出た。三河島《みかわしま》にも赤外線男が現われたと、時間と場所とを弁《わきま》えぬ出現ぶりだった。尤《もっと》もそれは皆が皆、本当の赤外
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