い》に近い声をあげた。「どこに誰がいるやら判らないじゃないか。よオし、諸君はとりあえずこっちに立っていて呉れ給え。僕たちは、この椅子に腰をかけていることにしよう」
 幹部だけが、スクリーンを包囲《ほうい》して、椅子に席をとった。
「いいですか」
「いいよ」
 パッとネオン灯は消えた。すると一尺四角ばかりのスクリーンの上に、朧気《おぼろげ》な映像があらわれた。
「馬鹿に暗いネ」と課長が云った。
「ピントが外《はず》れているのです。増幅器《ぞうふくき》もまだうまいところへ調整がいっていません。直ぐ直ってきますよ」
 なるほど映像はすこし明瞭度《めいりょうど》を加えた。テニスコートの棒くいや審判台らしいものが見える。そこへ人影らしいものが。
「人間が通っているぞ」課長が叫んだ。「早く肉眼で運動場を見せ給え」
「これは、こっちのレンズからお覗《のぞ》き遊ばして……」捜査課長の耳許《みみもと》でダリアの声がした。
「呀《あ》ッ」と課長は慌《あわ》てたが「いやなるほど、よく見えます。――なあーンだ、例の用務員が本当に通ってやがる」
 まず赤外線男ではなかったので安心した。
「この辺《あたり》のとこ
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