れるわけではないから、君のように必ず扉をガタンと閉めてゆくとは限らないからナ」
そのとき一人の刑事と何か囁《ささや》き合っていた雁金検事が、捜査課長の肩をつっついた。
「君、一つ発見したよ。この室《へや》の戸棚の隅に大きな靴の跡があったよ」
「靴の跡ですか」
「そうだ。これはちょっと変っている大足だ。無論、深山理学士のでもないし、またこれは男の靴だから、この室《へや》のダリア嬢のものでもない。寸法から背丈を計算して出すと、どうしても五尺七寸はある。それからゴムの踵《かかと》の摩滅具合《まめつぐあい》から云ってこれは血気盛《けっきさか》んな青年のものだと思うよ」
「検事さん、待って下さい」と捜査課長は慌《あわ》て気味《ぎみ》に云った。
「その足跡は果して犯人のでしょうか、どうでしょうか」
「それは勿論《もちろん》、いまのところ戸棚の隅にあったというだけのことさ」
「それにですな、赤外線男というのは、眼に見えない人間なんじゃないですか。その見えない人間が、足跡を残すというのは滑稽《こっけい》じゃないでしょうか」
「しかし君」と検事も中々負けてはいなかった。「深山君の報告によると、赤外線男
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