ふる》えていましたが、幸《さいわい》にもその後、別に異変も起らず、やっと我れに返ったようなわけでした。いや何と申してよいか、あのように恐ろしいと思ったことはありませんでした」
 そういって深山理学士は、大きい溜息《ためいき》をついたのであった。
「君は、そのとき、何か扉《ドア》の閉るような物音をききはしなかったかネ」と課長が尋《たず》ねた。
「そうです。そういえば、跫音《あしおと》らしいものが空虚な反響《はんきょう》をあげて、トントンと遠のくように思いましたが、別に扉がギーッと閉まる音は気がつきませんでした」
「ふふん、それはどうも……」課長は低く呻《うな》った。
「どうでしょうか、ちょっとお尋《たず》ねしますが」と事務員の一人がオズオズと進み出でた。「今の深山《みやま》先生のお話では、赤外線男が、この建物から扉を閉めて出て行った様子がございませんが、そうしますと、赤外線男はまだこの建物の中でウロついているのでございましょうか」
「そりゃ判らんね」と太った刑事が云った。「この辺にウロウロしているかも知れないが、また一方から考えると、赤外線男が建物から出てゆくときにゃ、別に所長さんに叱ら
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