乱舞する。いやその化物屋敷のような物凄い光景は、正視《せいし》するのが恐ろしく、思わず眼を閉じて、日頃|唱《とな》えたこともなかったお念仏《ねんぶつ》を口誦《くちずさ》んだほどでした」
理学士は、そこで一座の顔を見廻わしたが、憐愍《れんびん》を求めるように見えた。
「それから、どうしたです」課長は尚《なお》も先を促《うなが》した。
「それからです。室内の騒ぎが少し静まると、こんどは、壊《こわ》れた戸口がガタガタと鳴りました。何だか廊下に跫音《あしおと》がして、それが遠のいてゆくように聞えました。すると間もなく、向うの方で大きな響《ひびき》がしはじめました。掛矢《かけや》でもって扉を叩き割るような恐ろしい物音です。それは今から考えてみますと、どうも事務室の入口のように思われました。その物音もいつしか消えて、こんどは又別の、ゴトンゴトンという音にかわり、何となく小さい物を投げつけているように思いましたが、それも五分、十分と経《た》つうちに段々静かになり、軈《やが》て何にも聞えなくなりました。私は赤外線男がまだ此の室へ引返してくるのではないかと、気も魂《たましい》も消し飛ばしてガタガタ慄《
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