していたかと云うと、赤外線男のために、もろくも猿轡《さるぐつわ》をはめられ両手を後《うしろ》に縛《しば》られて、室内にあった背の高い変圧器のてっぺんに抛《ほう》りあげられて、パジャマ一枚で震《ふる》えていた。これを発見したのは係官の一行だった。
「この事件を真先《まっさき》に発見したのは、誰かネ」
 と幾野捜査課長は、走《は》せ集った研究所の一同を見廻《みま》わしていった。
「儂《わし》でございます」年寄の用務員が云った。「儂は毎晩研究所を見廻わっている役でございます」
「発見当時のことを残らず述《の》べてみなさい」
「あれは午前二時頃だったかと思いますが、見廻わりの時間になりましたので、懐中電灯をもって、夜番《よばん》の室から外に出ようとしますと、気のせいか、どっかで物を壊すようなゴトゴトバリバリという音がします。どうやら深山研究室の方向のように思いました。これは火事でも起ったのかと思い、戸口を開けて闇《やみ》の戸外《そと》へ一歩踏み出した途端《とたん》に、脾腹《ひばら》をドスンと一つきやられて、その儘《まま》何もかも判らなくなりました。大変寒いので気がついてみますと、もう夜は明けか
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