理学士の研究室が不可解な襲撃《しゅうげき》をうけたことだった。
 これは午前二時前後の出来ごとだったけれど、警視庁へ報告されたのはもう夜明けの五時頃だった。場所が場所であるし、赤外線男の噂《うわ》さの高い折柄《おりから》でもあったので、直《ただ》ちに幾野《いくの》捜査課長、雁金《かりがね》検事、中河予審判事《なかがわよしんはんじ》等、係官一行が急行した。
 取調べの結果、判明した被害は、深山研究室の扉《ドア》が破壊せられ、あの有名なる赤外線テレヴィジョン装置が滅茶滅茶に壊《こわ》されているばかりか、室内のあらゆる戸棚《とだな》や引出しが乱雑に掻《か》き廻《まわ》され、あの装置に関する研究記録などが一枚のこらず引裂かれているというひどい有様《ありさま》だった。
 襲撃されたところは、もう一ヶ所あった。それは深山研究室に程近い研究所の事務室だった。ここでも同じ様な狼藉《ろうぜき》が行われているのみか、壁の中に仕掛けられた額《がく》のうしろの隠《かく》し金庫が開かれ、現金千二百円というものが盗まれてしまった。
 さて当の深山理学士は、当夜《とうや》例のとおり、研究室内に泊っていた筈だが、どう
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