!」
 運転手は弾《はじ》かれたように、座席から立ちあがった。彼の面《おもて》はサッと青ざめた。反射的にブレーキを掛けたが、もう駄目だった。
 ゴトリ。……ゴトリ。……
 車輪とレールとの間に、確かな手応《てごたえ》があった。あのたまらなくハッキリした轢音《れきおん》が……。佐用媛がいきなりホームからレール目懸《めが》けて飛びこんだのだ!
 それから後の騒ぎは、場所柄だけに、大変なものであった。
 現場の落花狼藉《らっかろうぜき》は、ここに記すに忍びない。その代り検視の係官が、電話口で本庁へ報告をしているのを、横から聴いていよう。
「……というような着衣《ちゃくい》の上等な点から云いましても、またハンドバッグの中に手の切れるような十円|札《さつ》で九十円もの大金があるところから考えましても、相当な家庭の婦人だと思います。……ああ、年齢《とし》ですか。それがどうも明瞭《めいりょう》でありませぬ。何《なん》しろ、顔面《かお》を滅茶滅茶《めちゃめちゃ》にやられてしまったものですからネ。しかし着物の柄《がら》や、四肢《しし》の発達ぶりから考えますと、まず二十五歳前後というところでしょうナ」
 
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