歯をむいて怒ったような顔をしたかと思うと、ツツーっと逸走《いっそう》を始めた。そしてアレヨアレヨと云う裡《うち》に、視界の外に出てしまった。駭《おどろ》いてテレヴィジョン装置のレンズを向け直したが、最早《もはや》駄目だった。しかし兎《と》も角《かく》も、予は初めて『赤外線男』の棲《す》んでいることを知った。われ等人間の肉眼では見えない人間が棲《す》んでいるとは、何という駭《おどろ》くべきことだ。そしてまア、何という恐ろしいことだ」
 深山《みやま》理学士の発表は、大体こんな風の意味のものだった。
「赤外線男」という名詞で、一つの流行語になってしまった。帝都の市民は、この「赤外線男」が今にも自分の身近《みぢ》かに現われるかと思って戦々恟々《せんせんきょうきょう》としていた。
 そのうちに、ボツボツ「赤外線男」の仕業《しわざ》と思われることが、警視庁へ報告されて来るようになった。
 郊外の文化住宅の卓子《テーブル》の上に、温く湯気《ゆげ》の立ち昇る紅茶のコップを置かせてあったが、主人公がさア飲もうと思ってその方へ手を出すと、これは不思議、紅茶が半分ばかり減っていた。これはきっと「赤外線男」
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