まで考えたことがなかった。それは実に、吾人がいまだ肉眼で見たことのなかった不思議な生物が、この器械によって発見されたことである。それは確かに運動場の上をゴソゴソと匍《は》いまわっていた。予は眼のせいではないかと、器械から眼を離し、肉眼でもって運動場を見たが、そこにはその影もない。これはと思って、赤外線テレヴィジョン装置を覗《のぞ》いてみると、確かに運動場のテニスコートの棒ぐいの傍に、動いているものがあるのだ。その内に、彼《か》の生き物は直立《ちょくりつ》した。それを見ると驚くべし、人間である。しかも日本人の顔をした男である。背は相当に高い。がっちり肥《こ》えている。なんか真黒な洋服を着ているようだ。鳥渡《ちょっと》悪魔のような、また工場の隅から飛び出してきた職工のような恰好である。それほどアリアリと眺《なが》められる人の姿でありながら、一度元の肉眼《にくがん》にかえると、薩張《さっぱ》り見えない。赤外線でないと一向に姿の見えない男――というところから、予はこの生物に『赤外線男』なる名称をつけたいと思う。
 しかし残念なことに、やがてこの『赤外線男』はこっちに気がついたものと見え、キッと
前へ 次へ
全93ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング