た。これは普通のテレヴィジョンと殆んど同じものだが、変っている点は、赤外線だけに感ずるテレヴィジョンで、可視光線は装置の入口の黒い吸収硝子《きゅうしゅうガラス》で除いて、装置の中には入れない。だから徹頭徹尾《てっとうてつび》、赤外線しか映らないテレヴィジョンである。
「予はこの装置の完成するや、永い間の欲望を何よりも早く達したいものと思い、装置を使って、研究所の運動場の方向を覗《のぞ》くことにした。折から夕刻だった。肉眼では人の顔も仄暗《ほのくら》くハッキリ見別けのつかぬような状態であったが、この赤外線テレヴィジョンに映るものは、殆んど白昼《はくちゅう》と変らない明るさであった。それは太陽の残光《ざんこう》が多量の赤外線を含んで、運動場を照しているせいに違いなかった。勿論画面の調子から云って、吾人《ごじん》が既に充分に知っている赤外線写真と同じで、たとえば樹々の青い葉などは雪のように真白《まっしろ》にうつって見えた。なんという驚くべき器械の魅力《みりょく》であるか。
「しかしこれは真の驚きではなかった。後になって予を発病に近いまでに驚倒《きょうとう》せしめるものがあろうとは、今日の今日
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