」と其の警官が云った。「これは映画のフィルムなんですよ。しかもそのフィルムが燃焼《ねんしょう》を始めたのを急にもみ消したとでも云いましょうか、フィルムの燃え屑なのです。それでも心当りがありませんか」
それは二人にとって更《さら》に見当《けんとう》のつかないことだった。話はそれまでとなって、白丘ダリアと伯父とは、警視庁を辞去《じきょ》した、というのであった。
「一体その伯父さんというのは、何という方なのかネ」学士が尋《たず》ねた。
「黒河内尚網《くろこうちひさあみ》という是《こ》れでも子爵《ししゃく》なのですよ。伯母の子爵夫人というのは、京子といいました」
「黒河内京子――君の伯母さんか」
「先生、伯母をご存知ですの」
「なアに、知るものかネ」学士は強く首を左右に振った。「さあ、今日は遅れたから、急いで組立てにとりかかろう」
そういって深山理学士は実験衣を拾いあげると、洋服の袖《そで》をとおした。そのときポケットから、四角い封筒がパラリと床の上に落ちたのを、学士は気付かなかった。
ダリアの眼は悪戯者《いたずらもの》らしく爛々《らんらん》と輝いた。太い腕が、その封筒の方へニューッと延
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