さい》なことでもよいから、夫人について腑《ふ》に落ちかねることが今までにあったならそれを話してみろということだった。
伯父は暫く考えていたが、ポンと膝を打った。
「そういえば思い出しましたが、妻《あれ》の居るときに、妙な質問を私にしたことがありましたよ。江戸川乱歩《えどがわらんぽ》さんの有名な小説に『陰獣《いんじゅう》』というのがありますが、あの内容《なか》に紳商《しんしょう》小山田夫人《おやまだふじん》静子《しずこ》が、平田《ひらた》一郎という男から脅迫状《きょうはくじょう》を毎日のように受けとる件があります。その脅迫状の内容というのは、小山田氏と静子夫人の夫婦としての夜の生活を、非常に詳細《しょうさい》に書き綴《つづ》ってあるのです。それは夫妻ならでは絶対に知ることのない内緒《ないしょ》ごとでした。それにも係《かかわ》らず、平田一郎という陰険《いんけん》な男は、一体どこから見ているのか、実に詳《くわ》しく、実に正確に、夫婦間の秘事《ひじ》を手紙の上に暴露《ばくろ》してある。――この脅迫状のことを、私の妻が突然話題にしたのです。江戸川さんの小説では、この気味の悪い手紙の主は、実は平
前へ
次へ
全93ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング